【完璧超人! 藤上さんちの姫水さん】

数学のテストを返してもらったとたん、私、藤上姫水は屈辱と衝撃で、危うく叫び出すところだった。

90点なのだ。

この私が90点!
一般人にとって、90点は合格点かもしれない。しかし完璧人間である藤上姫水にとって、90点は0点と同じだ。

私は完璧といってもただの完璧な女の子とはわけが違う。
美人で、歌も上手く、作詞もできて、衣装のデザインもできる。演技もできる。その上スポーツも得意で、性格も良く、頭も良いという、スーパー完璧超人なのだ!
その私が、見るも無残な90点とは!

さらにとどめがあった。

「二組の天名夕理が91点でトップやったぞ」
数学教師がテストを返すとき、私を責めるように言ったのだ。

天名夕理といえば、頭は多少良くても、私のような人気者とは違って性格がキツくてクラスのみんなにハブられているという、私よりよほど格の低い人間だ。
そんな天名さんに負けただなんて! 切腹ものではないか!!


放課後、私は鞄を抱えて教室を飛び出した。
本来なら一刻も早く家に帰り、自らの勉強不足を反省し、より一層勉学に励まねばならないところである。だが、部活がある。

衝撃とあせりで顔をこわばらせながら視聴覚室の扉を開けると、勇魚ちゃんが天名さんに手話を披露していた。

それを見た途端、私の苛立ちは爆発した。
天使の勇魚ちゃんが、地上に降りて天名さんごときに手話を披露するなんて!

「……天名さん、あなた来月は予備予選なのに練習しなくていいの?」

私の冷たい声に天名さんはびくりとし、勇魚ちゃんの視線が私へと向く。
「姫ちゃん、どないしたんや。何かあったん?」

まさか天名さんに負けてイライラしているとは言えないので、いつも通りの表情を貼りつける。
「別に何もないわよ?」

そこに、花歩ちゃんが入ってきた。
「姫水ちゃん、数学のテストで夕理ちゃんに負けたってほんま? 噂になってるで」

か、花歩ちゃん……余計なことを……。

天名さんが冷ややかな目で私を睨む。
「ふーん、なんや、それで私に八つ当たりしてたんか。テストで負けたくらいで不機嫌になるやなんて、人間の器が小さいな」

くっそー!

作曲だけが取り柄の性悪な子ダヌキに器が小さいと馬鹿にされて黙ってられるか。

「天名さん、私に作詞で負けたからと言って、僻まなくてもいいのよ」
「何やねん失礼な、中二病のくせに!」
「あなた、私がセンターの曲で転んで台無しにしたでしょう?」
「う、うるさい! どうせアンタ、東京で何かやらかして、ほとぼり冷ますためにこっちに来てるんやろ!」

勇魚ちゃんと花歩ちゃんは、私と天名さんの言い合いをあわあわと見ている。

「彩谷さんがあなたのような性格の子よりも私の方を好きになるのは当然ね」
「つ、つかさは関係ないし!」

彩谷さんの名前を出した途端、天名さんが涙目になるのがわかった。
ははん、この子の弱点は、やはり彩谷さんね。

「もー、姫ちゃんも夕ちゃんも、友達なんやから仲良くしよ!」
天使の勇魚ちゃんの取り成しで、その場はいったん収まった。

「そうね、ちょっとピリピリし過ぎかもしれないわね。ごめんなさい」
「え、あ、うん……わ、分かればええんや……」

さすが藤上さんちの姫水さん、こんな時でも演技は完璧にできる。

天名さん、あなたの大好きな彩谷さんはね、私と仲良くしたくてたまらないのよ。
そう思うと、優越感でスキップしたくなる。

数学のテストでは豆ダヌキにトップの座を譲ったが、この藤上姫水、テストで負けても女の魅力で負ける人間ではない。
胸の大きさも、私の方が数段上なのだ。

「天名さん、お互いに頑張りましょうね! 手加減は一切しないから」
「……私は正直、藤上さんのことよく分からへんようになったわ」

天名さんは私のイメージとの違いに戸惑い、花歩ちゃんと勇魚ちゃんは怪訝そうに、顔を見合わせるのだった……。



ラブライブ!WEST!!